「もう逃げない。~いままで黙っていた「家族」のこと」 和歌山カレー事件 林眞須美死刑囚長男 感想

・前提として

この事件が起きたとき、私は十分おとなでした。しかしフルタイムで仕事をしていたためこの事件をきっちり理解しているとはいえない状態でした。その当時、私が持ったいくつかの印象は、

マスコミのカメラに放水する眞須美さん、マスコミの記者と親しげな健治さん。子どもがいるかいないかは考えたこともありませんでした。

捜査が進むうち、事件で使われたヒ素と林家にあるヒ素を鑑定することになり、兵庫県にある「スプリングエイト」を使うと知りました。私はたまたまスプリングエイトに行ったことがあるのです。もちろん中に入った訳ではありません。このスプリングエイトという代物はやたらと大きいのです。外周に合わせて道路が走っていますが、車で一周15分以上かかった印象です。こんなたいそうな装置でヒ素の鑑定をやるのかと思いました。

眞須美さんに死刑判決が下されたとき、私はもやもやする思いを止められませんでした。証拠がないのです。たぶんスプリングエイトはヒ素を鑑定するための装置ではないと思いました。こんな証拠ともいえないことだけによって、死刑になるのはおかしいと思いました。

関西ではこの和歌山カレー事件がよく取り上げられました。テレビの企画で桂ざこばさんが眞須美さんに会いに行きました。実際に対面した桂ざこばさんは彼女は犯人ではないといい切りました。理由は「いじらしい。」それだけ。しかしはっきり犯人ではないという証拠があるのなら事件はとっくに解決しているはずなので、「いじらしい」という印象を与えた眞須美さんは偽物ではなかったと思います。

私は私の人生を必死で生き、事件のことばかり考えていたわけではありません。しかしまだ眞須美さんが生きておられるとは知っていました。やはり関心があったのでしょう。

Twitterで林家の長男さんを知りました。あれから21年も経つということ、林さんご夫婦にはお子さんがおられるということ、長男さんが発信していくことがわかり、私にとって和歌山カレー事件が身近に感じられるようになりました。長男さんの本を読んで感じたことを綴ります。

・眞須美さん、健治さんの生き様

眞須美さんはお嬢様育ちだったようです。お金に全然困らない人生だったのに何故、保険金詐欺に手を染めたのか不思議に思いました。正直にいうと恵まれた青春時代を送った眞須美さんに嫉妬している自分がいます。

健治さんはハチャメチャな人生を歩まれたようです。印象に残ったのが、家出をして4日間何も食べていなかったときに食べさせてもらったおにぎりが今までで一番おいしかったという話です。長男さんも指摘されておられますが、この体験が極度に貧乏を恐れて保険金詐欺に繋がったのではないかと思えました。

この二人が夫婦となります。眞須美さんは看護学校に通ってお医者さんと結婚する予定だったのに、何故16歳も年上の健治さんと結婚することになったんでしょうか?16歳も年上なら相当おじさんに見えたでしょうし、よく恋愛の対象になったなと思いますが、それだけ健治さんが魅力的だったということでしょう。また健治さんも眞須美さんがかわいくて仕方がなかったと推測します。

・子どもたちの運命(児童相談所、児童養護施設)

両親が逮捕されて兄弟4人はまず児童相談所に収容されます。ここでの暮らしぶりを長男さんは淡々と記しておられますが、そこは暴力の巣窟だったのです。また職員である大人達も見て見ぬふりだったようです。この章を読んで震えるぐらい怒りがわきました。これが昭和初期とかではなく、平成の話だとはにわかには信じられませんでした。ただ児童相談所は次の行き先が決まるまでの仮の住まいです。

そして何年かはここに腰を据えて暮らすであろう児童養護施設へと移ります。長男さんも児童相談所を脱出出来て気持ちが軽くなっておられるようです。ところがそんな期待はほんの数分で打ち砕かれます。長男さんには暴力、3姉妹には陰湿ないじめが待っていました。

家庭ではなく施設で暮らすには、いじめ・暴力は甘んじて受けないといけないのでしょうか?いじめっ子達は子供であっても、目の前にいる子が犯罪を犯した訳ではないとわかりそうなものです。世の中は性悪説なのでしょうか?私はただ悲しいです。

保険金詐欺で豊かな生活を送っているときに、こんなことをしたせいで自分の子供たちがこんなに過酷な運命になってしまうことは想像もされなかったのでしょうか?でも保険会社を欺し、医者を懐柔し、まぁ自分も苦しんで何回も成功させているのですから、捕まるなんて考えたこともなかったかもしれません。自分たちがいい思いをするために子供たちの人生をめちゃくちゃにしたということに関して、私は眞須美さん、健治さんに怒りを覚えます。

引き取ってくれる親戚とかいなかったのかな?と思いますが、悲しいかないなかったのでしょう。

・子供たちが大人になって・・

長女さんが最初に一人暮らしを始めます。そこに長男さんも転がり込みますが、長女さんの彼氏がいて、一日だけ邪魔をした長男さんは翌日は公衆トイレで寝たと書かれています。もっと厚かましく長女さんの部屋に居座ったらいいのに、忖度してしまう長男さんが悲しいです。

長男さんはおそらく同世代と比べたらとても大人で、しかも真面目に思います。アルバイト先の飲食店でもきっと誰よりも真面目に取り組んだと思います。しかし眞須美さんの子供であることが知られると「うちは食べ物を扱ってる店だから、衛生的に問題があるんだよね」と店長に告げられます。ここでも人を恨まず、店長に忖度して自分から離れていかれました。

その後も長男さんは仕事にだけは恵まれて、自分の稼いだお金で欲しいものを買って食べたいものを食べるという当たり前の幸せをお感じになられたのでは、と推測します。

結婚。長男さんは結婚に強い憧れがあったと書かれています。きっと平凡過ぎるぐらい平凡な暮らしを求めておられたのではないでしょうか?お嬢様がタイプというところで少し笑ってしまいました。健治さんに似たというよりは、眞須美さんの面影を求めておられるのではないかと感じました。お付き合いは問題ないけど、結婚となると家と家の話になりなかなか結婚に踏み込めません。今の独身でいらっしゃるのかな?

・最後に

4人兄弟のうち3人の女性は林家との縁を切りそれぞれの道を歩むことを決められたそうです。もし健治さんが出所して和歌山に帰らなかったら?もし長男さんも他の兄弟と同じ選択をしたら?眞須美さんはもう頑張れないかもと思いました。それぐらい長男さんは眞須美さんにとって希望であると思います。

本の出版、テレビ出演など今後も難しい場面があることでしょう。利用してやろうと近づいてくる人もいるでしょう。こんなことは百も承知で長男さんは腹をくくったのでしょう。

再審請求が受け入れられますように。真犯人が捕まりますように。眞須美さんの無罪を信じています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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