はじめに
是非紹介したい作品があります。私は子どもの頃から読書が好きでした。その習慣が今まで続いているのは、この本たちの存在が大きいです。
中学生の時に初めて読んだ「大人の」本。夢中になりました。この記事を書くに当たって復習がてらペラペラ流そうと本を開きましたが、ものすごい磁力で全部を読まずにはいられませんでした。
「七瀬三部作」は本が3冊あり、題名はバラバラです。私も2冊目から読んでしまいましたが、これから読む方は是非順番に読んでみて下さい。
「家族八景」
「七瀬ふたたび」
「エディプスの恋人」
この3冊で一つのシリーズとはちょっと考えませんよね?
主人公は「火田七瀬」物語の始めでは18歳。超能力者です。人の心が読めるのです。テレパスです。
勝手に自分の心を読まれたらイヤですよね。だからこの能力をひた隠しにしています。
そして人、主に男性の心を読んで「それがどんな美人コンテストであれ、3位以下には絶対にならない」外見であると自分のことを客観的に評価しています。なかなかイヤな奴ですね。
この本が発行されたのは、昭和50年(1975年)です。年齢の捉え方が今とだいぶ違っていて、プラス10歳ぐらいで読むのがいいと思います。
昭和50年といえば、中島みゆきが「時代」を歌い、「欽ちゃんのドンとやってみよう」がTV放送開始。プッシュ式公衆電話が初めて登場。ケータイもスマホもポケベルもありませんでした。
つまり今とは時代が全然違うということです。若い人が読むと目をひそめたくなるような描写もありますが、そんな時代だったっということでご理解いただければと思います。
作者である筒井康隆先生は今もまだまだお元気で、SF作家の枠を超えてどんどん作品を生み出しています。どんな方なのか?
関西の方なら深夜の「ビーパップハイヒール」に「かしこ」として出演されています。また「時をかける少女」って聞いたことありませんか?これも筒井康隆作です。楽しい、頭のいい方です。
では順番にご紹介させていただきますが、私の駄文でこれらの本を評価せず、是非この作品たちを手に取っていただきたいと思います。
「家族八景」
文字通り8組の家庭に七瀬がお手伝いさんで住み込むお話です。既に何軒かのお手伝いを経験していて、またお手伝いさんの仕事で新たなお家を訪ねるところから始まります。
・無風地帯(尾形家)家族それぞれが父や子どもなどを演じている。しかし心を読める七瀬にはそれがいかに白々しい芝居であるかわかるのです。中でも主婦咲子の心の中は感情がなく、あの部屋の電灯が切れているなど日常の事柄がバラバラに散らばっているだけです。七瀬は別の家に紹介されることになって、この家を出るのですが、はたと気が付きます。咲子は本心を見せないようくだらない事柄を心の表面に散らばしているのではないか?ということは咲子は自分と同じテレパスなのではないか?七瀬は心で呼びかけてみますが、返事はありませんでした。
・澱の呪縛(神波家)子どもが11人いる家で働くことになった七瀬。この家に入ると胸がむかつくようなイヤな臭いがします。しかし家族たちは全く気付いていないようです。ある日七瀬が徹底的に掃除をします。すると一人、また一人帰ってくる子ども達が自分を非難していることに気が付きます。子どもたちは七瀬という異物によって、自分たちの不潔さに気が付いてしまったのです。
・青春賛歌(河原家)この家の主婦陽子は七瀬が憧れる女性でした。うんと年下のボーイフレンドがいて、経済的にも恵まれているようです。しかしスポーツカーで接触事故を起こしてしまいます。「いつまでも若いと思っていたら大間違いだ、身体は老いてきてるだぞ」と夫に叱られ改めて自分の年齢に気が付きます。38歳、もう若くはないのだろうか?自分はこれから脇役を演じないといけないのか?若さが欲しい、この子の皮膚が欲しい、とじっと七瀬を食い入るような目で見つめているのでした。
・水蜜桃(桐生家)この家の亭主、勝美は突然55歳で定年を言い渡されます。60歳まで働くことが当たり前だったのに、ととてもショックを受けます。この年の男性が家にずっといると正直鬱陶しいですよね。家族みんなに邪険にされ、勝美は自分の存在価値を確かめるため七瀬を犯すことを思い付きます。息子の家族が旅行に出掛けた夜、勝美はそれを実行しようとします。力では到底かないません。しかしこんな男に犯される訳にはいきません。いよいよピンチ、という時に七瀬はひた隠しにしている読心術を使って勝美に対抗します。
・紅蓮菩薩(根岸家)この家の主人、新三が心理学の助教綬ということに惹かれ、働くことを決めた七瀬。「火田」という姓に反応する新三。七瀬の父がある実験で飛び抜けた成績を残したことを覚えていて、七瀬にお父さんは元気かと尋ねます。「死にました」残念。お、ではこの子で実験してみようと思い付き、自分の書斎に七瀬を呼びます。実験などされてもし自分の能力に気付かれてしまえばおしまいです。七瀬は思い切りバカを演じて「実験なんてしたくありません!」と書斎を出ます。何故こんな目に遭うのかと涙が止まりません。それを見た新三の妻が「夫がお手伝いに手を出した」と誤解してしまいます。
・芝生は緑(高木家と市川家)七瀬は高木家のお手伝いさんですが、一週間だけ市川家に行ってほしいと頼まれます。この二組の夫婦は自分のパートナーは最悪で、それに引き換えあちらはいいなと思っていました。七瀬はそれを知ってイタズラを仕掛けます。ある日のランチ。それぞれのカップルがホテルのレストランで鉢合わせします。わりと暗いめの話が多いなかで、この作品はユーモラスで読後感がいいです。
・日曜画家(竹村家)普段は会社員で日曜日だけ絵を描くこの家の主人、天州。彼の心を覗いてみると今まで見たことのない風景がありました。色々な色の色々な図形。妻の登志はオレンジの長方形、七瀬本人は小さな白い円でした。今まで散々汚い心の中を見てきた七瀬には、天州の心が非常に清潔だと好意を抱きます。七瀬が住み込んで数日が経つと、七瀬を現わす白い円はかなり大きくなっていました。普段の会社勤め中の天州の心を覗きたいと、わざわざ休みをもらって彼がいつもランチをする店で待ち伏せします。ところがここで天州に大きく幻滅します。
・亡母渇仰(清水家)病人、恒子の世話をするために雇われた七瀬。場面はこの病人の葬式場面で始まります。おんおんと大声を張り上げて泣く息子、信太郎。呆れる妻、参列者。この母子は常識からはるかに逸脱した関係でした。病気になる前は二人で一緒に寝てたぐらいです。妻がいるのに。恒子は小さい頃から信太郎を可愛がり、どんな敵でも追い払ってやりました。その恒子が死んでしまったら、僕はどうすればいいんだ、ママ、ママどうすればいいんだようと信太郎の心は崩壊してしまいました。清水家のラストは皆さんに取っておきます。是非読んで下さいね。
七瀬ふたたび
この本を筋道立てて要約する力がないので、舞台とそこに出てくる超能力者を紹介します。
舞台:列車
七瀬と同じテレパスの「ノリオ」
予知能力者「岩淵恒夫」
舞台:高級バー ゼウス
透視能力者「西尾」
念動力「ヘンリー」
舞台:船内
時間旅行者「漁(すなどり)藤子」
舞台;マカオのカジノ
一般人「真弓瑠璃」
これで超能力者がすべて揃いました。まず西尾ですが、大変邪悪なので七瀬とヘンリーが殺します。(ね、なんか非現実的になっちゃいますよね)
ただ一人の一般人真弓瑠璃は頭の回転がめちゃめちゃ早く、しかも女性らしくとりとめがないのでテレパスにはとても心を読むのが難しいのです。彼女は七瀬と間違われて突然ピストルで殺されてしまいます。
七瀬、ノリオ、岩淵、ヘンリー、藤子。舞台は北海道に移ります。
これはあらすじを読むより、是非小説でお楽しみいただきたいです。
超能力者バーサス超能力者を全滅させる組織の戦いになります。
これ以上はもう野暮というものです。私からは以上です。
エディプスの恋人
七瀬は私立高校の事務員として働いています。その学校の生徒には一般人とは明らかに違う変わった思考の持ち主がいます。超能力者でもないようです。
七瀬はこの男子学生に興味を抱き、卒業した学校や同級生などに色々聞いて回ります。生まれた村にも行ってみます。
彼の名前は「香川智広」調査した結果、どうしてもわからないことがありました。
ある日突然、七瀬は恋に落ちてしまいます。初恋でしょうね。相手は「香川智広」しかも彼も七瀬に恋をしているようでした。調査とかもうどうでもよくなってしまい、ただただ一緒に居たくて毎日夜の町をさまよいます。七瀬は一人暮らしですが、香川君は父親と同居しているはずです。何にも言わないのかしら?七瀬は父親に会いたいといって、香川君を介してアポを取ります。
この香川君のお父さんのお話がまぁ面白いのです。七瀬が疑問に思っていたことも氷解します。
まぁまぁお金持ちの息子に生まれたお父さん。学校で「絵が上手だね」といわれてその気になります。美術大学や専門学校に行かせてほしいと駄々をこねますが、戦争が始まったこともあって結局行きませんでした。
お父さんは酒に溺れます。しかし文具店の娘「珠子」と出会ったことで、正気に戻り、絵を描き始めます。そして「智広」が生まれます。
しかし幸せな時は長く続きませんでした。妻「珠子」が行方不明になってしまったのです。
これ以上はネタバレになるのでここまでです。
ラストシーンは七瀬と「香川智広」は結婚するのだな、と思わせるものです。香川君はまだ高校生ですが、どうなるのでしょうか?
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